スパイダーマン史における結構な厄ネタに挑む気なんですか …… ?
いよいよ発売日まであと10日をきった、PS5用ゲーム『Marvel ’s Spider - Man 2』(10月20日発売予定 ) 。
自分は『Marvel ’s Spider - Man』シリーズのことは数ある『スパイダーマン』のメディア展開の中でも優等生だと思っていたのですが、新しいトレーラーを見てからというものの、心のざわつきを抑えることができずにいます 。
クイーンズとブルックリンも加わりますます広くなったマップ面積や、ピーターとマイルズを一瞬で切り替えられるといった「ゲーム的な進化」については一旦置いておいて、ここでは角度を少し変え、『スパイダーマン』オタクの筆者から見た、今作の気になる要素をピックアップしてみます 。
なぜかというと、これまでに公開された情報やトレーラー映像などを見るかぎり、ある「嫌な予感」がするからです …… 。
ついに役者がそろった「ニック・スペンサー期被害者の会」
真っ先に気になったのは、ミステリオの登場が示唆されたことです。ミステリオはVFXや幻覚を使うヴィランで、映画『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』にも出ていたのでご存じの方も多いでしょう 。
これで出演が確定的になったのは、リザード、クレイブン・ザ・ハンター、ノーマン・オズボーン、ハリー・オズボーン、そしてミステリオ … … (ヴェノムももちろん登場しますが、これは後述 ) 。
「 ニック・スペンサー期被害者の会」、とうとう役者がそろいましたね !
これだけでは「何を言っているんだ」と思われそうなので、少し長くなりますが軽い『スパイダーマン』ヒストリーにお付き合いください 。
時はさかのぼり2018年、ゲーム『Marvel ’s Spider - Man』1作目が発売されたその年、原作漫画にあたる『アメイジング・スパイダーマン』のクリエイター陣も刷新されました 。
そもそも『アメイジング・スパイダーマン』という漫画自体、さまざまなクリエイター陣が入れ代わり立ち代わりしながら作成され続けたという経緯があるので、刷新されること自体は珍しくありません。しかし、このときばかりは違いました。なんせ、この前に脚本を担当していたのがダン・スロットだったためです 。
ダン・スロットのすごさを簡単に言ってしまえば、「スパイダーマンの概念を使いやすいよう、エンタメたっぷりにメンテナンスした人」です 。
「 生誕50周年記念でピーター・パーカーの肉体が宿敵に奪われる!」とか、「過去に出たスパイダーズをすべて集結させる!」といった刺激的なストーリーもさることながら、理詰めで物語を通して『スパイダーマン』ユニバースの法則を一つ一つ浮かび上がらせる手腕は見事というほかありません 。
漫画以外の実績でわかりやすいものは、ゲーム版『Marvel ’s Spider - Man』や、映画『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』の制作にも携わっていた(インタビュー動画)あたりでしょうか 。
ダン・スロットはけっこう面白いスパイダーマンの理論をいろいろ提唱しています 。
例えば「スパイダーマンはなぜヴィランを殺して復讐の連鎖を終わらせてはいけないのか ? 」 。
彼の理論でいうと、大きく分けて2つの理由がありました 。
一つは無難に「その相手も誰かの隣人であり更生する可能性があるからその芽を摘んではいけないから」なんですけど、もう一つがユニークで「マーベルの世界では蘇生手段が豊富だから本人を更生させないとただの時間稼ぎにしかならないから」なんですね 。
このへんの考え方はMCUのシリーズ、特に『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』に色濃く受け継がれています 。
そんな重圧の中、バトンを受け取ったのがニック・スペンサーでした。彼は「スパイダーマンが登場する過去の漫画50年分をおおむね読んだ」と豪語しており(MARVEL公式の記事)、その言にたがわず『スパイダーマン』という歴史に果敢にも立ち向かっていきました 。
先ほども述べたように、『アメイジング・スパイダーマン』の漫画はさまざまなクリエイター陣が長々と手がけている関係で、当然各エピソード間の整合性がとれていないこともしばしば 。
なので、そのときそのときの「ライブ感」を重視する方が自然なのですが、この人はそれに真っ向から歯向かい、「およそ2000話近い『スパイダーマンが主役の漫画シリーズ』を一つの歴史として見たとき、果たして最も妥当といえる解釈はどうなるか」というシリーズを展開しました 。
ダン・スロットは『スパイダーマン』の漫画がさまざまな媒体の原案として使われることを考え、それに向けて調整していきましたが、一方でニック・スペンサーは「スパイダーマンの漫画のメンテナンス」だけに集中したのです 。
そして、ようやく話を戻すのですが、今回『Marvel ’s Spider - Man2』でメインを張るであろうキャラクターの大半が「スペンサー期にひどい目に遭ったキャラクター」なんですね 。
あまりにも鋭すぎたニック・スペンサーの仕事
特に伝説的なのはノーマン・オズボーンとハリー・オズボーンの親子およびミステリオの関係性です 。
もともと、父・ノーマンは自らの家の名誉と、自らが最強であることの証明のためにグリーンゴブリンとしてスパイダーマンをつけ狙っていました。といっても、ノーマンの意識はそちらに注力するあまり、当のハリーからするとネグレクト同然 。
なので、基本的な関係性としては「エゴイストで狂人のノーマンとそれに支配されたナイーブでかわいそうなハリー」という構図なのですが、ニック・スペンサーは『スパイダーマン』の漫画を読み続けるうちに違和感を覚えたようです 。
ここでニック・スペンサーが気付いてしまった「スパイダー真実」と、それが明らかになった当時のファンの混乱を表す画像を紹介しておきます 。
SPOILERS : Amazing Spider - Man ( vol . 5 ) # 73pic.twitter.com/bpUjYy1h36
<ハリー・オズボーンはグウェン・ステイシーと自身のクローンを何度も作成して、自身の子どもとしてサラとガブリエルという双子を作り出した。そして、ハリーは彼の魂をメフィストに売り渡した父・ノーマンに復讐をするべく、ノーマンにこの双子の実の父親であると思い込ませた>
<その後、ハリーはミステリオを復活させ、彼を活用することで父ノーマンに様々な洗脳を試みた。そしてハリーは成功したクローンとしてサラとガブリエルを自身の操り人形として使い、スパイダーマンを何度も拷問した>
( ※一部筆者が情報を補いつつ意訳したもの )
いきなりこれだけ見せられてもよく分からないと思うのでざっくりと解説すると、『スパイダーマン』にはいくつか悪名高いエピソードがあります 。
例えば、「ノーマンとグウェン(ピーターの元カノ)の間に実は子どもがいた」とか、「メイおばさんを生き返らせるために悪魔メフィストにピーターの結婚を差し出した」とか。それらのエピソードは大人の事情が透けて見えるもので、ファンの間では「キモイし変な話」だとは思いつつ、「文句を言いながらも流している」という状況でした 。
ただ、ニック・スペンサーはそれらの凸凹に正面から立ち向かうべく、「すべての黒幕はハリー・オズボーンひいては悪魔メフィストであり、父・ノーマンは彼らの手のひらで踊っていたにすぎないんだよ!!!」「な、なんだってー!」という暴論をぶち上げます。その結果、それらのキモイエピソードを「ハリー・オズボーンと彼を操っていたメフィストやばくね、そこまでやるか普通」という印象へと無事書き換えたのでした 。
ニック・スペンサーのスパイダーマンへの洞察力とリサーチ力、それからつじつまを合わせる力は非常に高いのですが、反面批評する精度が鋭すぎたり、自身の提唱する説が頑強すぎたりするのが逆に困りものでした 。
例えば、当時マイルズの方のスパイダーマンの連載を担当していたのはサラディン・アーメッドという方で、この人はマイルズが親愛なる隣人スパイダーマンとしてコミュニティとともに成長していく様子をオールタイムベスト級のクオリティで書き上げて見せました 。
反面ニック・スペンサーの方はというと、ピーターに対しての「当たり」が非常に強く、全体を通して「キミ何も考えてないでしょ」と常にぐうの音も出ない形で詰問し続けているような内容でした。そのため両方のシリーズを追いかけている読者としては、だんだん「もうピーター頼むからしっかりしてくれ、後輩で一回りくらい違うマイルズのほうがちゃんとしてるぞ … … 」と内心悔しがりながら読んでいたことをよく覚えています 。
というわけで、スペンサー期のスパイダーマンもハチャメチャで面白いのですが、あくまでそれはオタク批評的かつスパイダー衒学(げんがく)的な「内向きの面白さ」という意味でのこと 。
ダン・スロット期のエンタメ的なスパイダーマンと違って表に出ることはない(原案として採用されることはない)だろうなと思っていたのですが … … それがどういうことでしょう、スペンサー期に活躍した面々がまるで同窓会と言わんばかりに次々とトレーラーに出てくるじゃないですか 。
「 スパイダーマンが死に戻りで世界の危機に立ち向かう」とか、「ピーターの妹とされていた人が実はそう思い込んでただけだった」とか、「悪魔の手で復活したヴィランおよそ40名がスパイダーマンに一斉に襲い掛かる話」とかは … … 正直見たい 。
特にクレイブン・ザ・ハンターはスペンサー期初めての大型イベント「Hunted」の主演を務めたヴィランです 。
もともと「最強の狩人」を自称していた彼は、次なる最高の獲物としてスパイダーマンに戦いを挑んでは返り討ちに遭っていました。一度はスパイダーマンに完全勝利を収め、そのまま自殺することで逃げ切ったのですが、のちに家族に蘇生されてしまったばかりか不死の呪いまで付与されてしまったため、有終の美とプライドがずたずたに …… 。
その後彼は、再び自殺するために後継者としてのクローンを作成。ピーターかクローンに自分を殺してもらうべく、これまでに出てきた「動物モチーフのキャラクター(もちろん、スパイダーマンやリザードの家族なども含む)をハントするデスゲーム」を始めました 。
このへんの「狩人としてのプライド」や、「親子の関係性による呪い」「獣と狩人の根本的な違い」などは本作でもテーマとして示唆されていますね 。
そう考えると今回の『Marvel ’s Spider - Man 2』も、スパイダーマンおよびピーターにとって風当たりの強い作品になっているかもしれません 。
テーマは「復讐」と「自分が自分ではない」
さて、その他のところでいうと、今回のトレーラーを見るかぎり、本作のテーマは「復讐」と「自分が自分ではない」であるように見えます 。
例えばコスチュームを見ると、トレーラー中に『スーペリア・スパイダーマン』のスーツ(下記写真の左奥)が写っています。このコスチュームはドクター・オクトパスが寿命で死ぬ間際、ピーターの肉体を乗っ取った際に着ていたものです 。
また、下記写真でピーターが着ている青いフード付きのコスチュームは、ピーターのクローンが心のバランスを大きく欠いていた時期に着ていたもの 。
また画面左側に小さく写っている、ヘルメットをかぶっているようなコスチューム(上から2行目、左から3列目)はマイルズがオットーに乗っ取られていたときのものですね 。
他にも、サム・ライミ監督による映画『スパイダーマン3』を見た人なら、以下のスーツをまとったピーターが怒りを抑えられなくなったのをよく覚えているのではないでしょうか 。
さらに、ゲーム版1作目のDLCで行方不明となっていたユリ・ワタナベがレイス(※)として街に戻ってきました。彼女の復讐の刃の切っ先やいずこへ 。
( ※原作では警官のユリのヴィジランテとしての顔。スーパーヴィランから押収した装備で戦う。シリーズ1作目のDLCでも原作同様、法律の限界を感じてレイスになったことが暗示された )
既存読者にとっては、こうして公開されたトレーラーを見れば見るほど不安になっていく作りですね 。
ヴェノムは派生作品の設定を採用か
最後に、ヴェノムことシンビオートは原作『アメイジング・スパイダーマン』の設定を直接採用するのではなく、派生作品の設定を用いているようです(そもそも最近の原作漫画だとシンビオートは「神殺しの武装」ということになっており、ユニバースレベルの話になってしまって使いづらいということもあるのかもしれません ) 。
今作のヴェノムは映画『スパイダーマン3』や『ヴェノム』シリーズのように、「意思のある寄生型のエイリアン」であり、「宿主と一体化し宿主に無類の力を与える」「その代わりに宿主の体をコントロールしようとし、使っているうちに感情が高ぶっていく」という設定で行くようです 。
また、その目的が「癒し」にあることから、漫画『アルティメット・スパイダーマン』で描かれた「ピーターの父らが作ったガン治療薬」で「肉体を記憶し再生させることができる」という側面も併せ持っているように見受けられます 。
ちなみに実はこの薬は失敗作で、ピーターの両親が亡くなった後で、その研究を引き継いだのがカート・コナーズ博士ことリザードだったりします。今回のゲームで呼ばれているのもその縁かもしれませんね 。
注目したいのは弱点で、映画版のヴェノムは炎と音波に弱く、『アルティメット・スパイダーマン』の方は電気に弱いので、弱点の3分の2がマイルズの得意分野なんですね。トレーラーの最後でもヴェノムをはねのけているのはマイルズの電気のようなエフェクトだったので、このあたりが大きく関わってくるかもしれません 。
他にも、オズボーン親子とヴェノムといえば、ダン・スロット期の最後のエピソード『Go Down Swinging / Red Goblin』でしょう 。
あらすじとしては、ノーマンがとうとうスパイダーマン=ピーター・パーカーであることにたどり着き、カーネイジ(ヴェノムの子ども)と結びつきパワーアップし街を蹂躙(じゅうりん)していくというもの 。
スパイダーマンも仲間とともに立ち向かうのですが、あまりの強大さに打つ手はなく、一人また一人と倒れていく仲間たち。そんな中、スパイダーマンのピンチに駆けつけたのはかつて戦ったヴィランたちだった―― ! 本作でも、既存のヴィランたちがどこかで助けに来てくれるかもしれませんね ?
なんにせよ、スパイダーマン史に残る厄ネタを取り扱うその心意気やよし ! 発売日まで待ちきれませんね 。