英紙ガーディアンは、ウクライナ侵攻を続けるロシアが「旧ソ連の国々に対する支配力を失っていることを示唆している」と分析しています 。

旧ソ連地域にある自称国家「アルツァフ共和国」に消滅の危機が迫っています 。

アゼルバイジャンのナゴルノ・カラバフ地域にある自称国家。隣国のアルメニアが支援するアルメニア人勢力が1990年代の戦争で勝利しました 。

アルメニアの首都エレバンで行われた抗議デモで「アルツァフ共和国」の国旗を掲げるデモ隊(2022年5月撮影、AFP=時事)

30年以上も独自の政権を樹立して「アルツァフ共和国」として実効支配していました。アゼルバイジャン政府の支配は、これまで及んでいませんでした 。

アゼルバイジャンのアリエフ大統領が降伏要求

アゼルバイジャンは「アルツァフ共和国」の存在を認めず、アルメニア軍が国土を支配していると批判してきました 。

アゼルバイジャン国防省は9月19日、ナゴルノ・カラバフ地域で国軍が「対テロ作戦」を実施したと発表しました 。

軍事的な施設とインフラのみが対象となり、高精度な兵器で無力化していると主張しています 。

2023年8月24日、プシーリン氏とモスクワで会談するプーチン大統領(AFP=時事)

付近の住民に対して「アルメニア軍の軍事施設に近づかず、アルメニア軍を支援しないように」と呼びかけています 。

同国のアリエフ大統領はビデオメッセージのなかで「違法なアルメニア軍組織が白旗を掲げ、すべての武器を引き渡し、違法政権を解体しなければならない。そうなるまで、対テロ作戦を継続する」と述べています 。

砲撃を受ける「アルツァフ共和国」の動画

「 アルツァフ共和国」の公式アカウントは9月20日、X(旧Twitter)に動画を投稿。アゼルバイジャン軍の砲撃音と思われる音が「首都」ステパナケルトに響いており、「虐殺が進行している」「アゼルバイジャンがアルツァフに大規模な侵攻を続けている」と非難しています 。

GenocideIn Action!#Azerbaijancontinues prominent - exfoliation military offensive against#Artsakh . Video from Stepanakert.pic.twitter.com/W296Pd1F5r

自称アルツァフ共和国とは?

ハフポスト日本版によると、ナゴルノ・カラバフ地域は伝統的にアルメニア系の住民が多く住む土地です。山梨県ぐらいの広さの山がちな土地に15万人程度が暮らしているとみられています 。

旧ソ連が崩壊する3カ月前の1991年9月2日、アルメニア人勢力は隣国アルメニアの支援を受けて「ナゴルノ・カラバフ共和国」として独立を宣言しました 。

1万7000人の死者を出し、100万人以上が難民になったとされる戦争の結果、アルメニア側がアゼルバイジャンを破り、そこから30年以上も独自の政権が支配していました。2017年以降は「アルツァフ共和国」という国名がメインで採用されています。国旗はアルメニアとほぼ同じ三色旗ですが「くの字」のような白線が加わっています 。

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ただし、支援しているとみられるアルメニアも含めて、どの国連加盟国からも国家承認を得られていません 。

2度目の戦争で支配地域が大幅に減少。ウクライナ侵攻でロシアの支配力が薄まったことが原因?

英紙ガーディアンによると2020年には2度目の戦争が起き、44日間にわたる戦闘の結果、「アルツァフ共和国」の支配地域は大幅に減少。ロシアの仲介交渉による停戦交渉の結果、約2000人のロシア軍が平和維持軍として駐留していました。同紙は今回のアゼルバイジャンの動きについて「ウクライナへの高コストな侵略によってロシアが気を散らし消耗したことで、これまで勢力圏と見なしてきた旧ソ連の国々に対する支配力を失っていることを示唆している」と分析しています 。

【UPDATE】「主権を回復した」とアゼルバイジャン大統領が宣言

アゼルバイジャン国営通信によると、同国のアリエフ大統領は現地時間9月20日、国民向けにテレビ演説。「対テロ作戦に成功した結果、昨日午後1時ごろ、アゼルバイジャンは主権を回復した」と述べました。「アゼルバイジャン領にあるアルメニア軍の大部分は完全に破壊された。軍事装備は破壊され、無力化された」と報告した上で、アルメニア側から武器の引き渡しも始まっているとしました。また、ロシア国営のタス通信も20日、「アルツァフ共和国の当局が、ロシアの平和維持軍の停戦提案を受け入れた」と地元メディアの報道を引用しています。未承認国家「アルツァフ共和国」の事実上の降伏とみられています 。

( 2025-04-24 12:30 )

AFP通信が報じたナゴルノ・カラバフ地域の地図

黄色が現在の「アルツァフ共和国」の実行支配地域。濃い紫色と薄い紫色が2020年にアゼルバイジャン政府に奪還された地域

Map showing territory controlled by Armenia and by Azerbaijan in and around Nagorno - Karabakh since warfare between the two countries in 2020#AFPgraphicspic.twitter.com / IC4JIkpXLf

【 訂正】国名をアルツォフ共和国と表記していましたが、正しくはアルツァフ共和国だったため訂正いたしました。(2024-12-26 01:16 )

戦前に撮影された昭和天皇(左)と「終戦の詔書」の原本(時事通信社/Getty Images)

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